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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(あ)1331号 決定

本籍

川崎市池田町一二六番地

住居

同市渡田向町七三番地

(現在東京拘置所在所)

文筆家

田中こと

田井中克夫

昭和九年一月七日生

右詐欺、窃盗被告事件について昭和三二年四月二二日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人薬師寺志光の上告趣意及び被告人本人の上告趣意第四(上申書と題する書面記載の上告趣意の補充を含む)について。

所論はいずれも単なる訴訟法違反の主張であつて、(原審のこの点に対する判断は相当である)適法な上告理由に当らない。

被告人本人の上告趣意第一(同上補充を含む)第三、第五及び第六について。

所論はいずれも事実誤認、訴訟法違反の主張を出でないものであつて適法な上告理由に当らない。

同第二について。

所論は違憲をいう点もあるけれどもその実質は事実誤認、訴訟法違反の主張に帰するものであつて適法な上告理由に当らない。なお、記録によれば、所論証人藤の井米子、同女中おみつこと土井光子、同小野竹喬(英吉)、同小野道子及び同滝沢漾は、いずれも原審第二回公判期日において弁護人の申請により採用された証人であり、その採用決定の際、その尋問の日時場所をいずれも昭和三二年三月二五日午前一〇時、京都地方裁判所と指定告知されたものであること、同公判期日には被告人も出頭していたこと、その後原審は検察官及び弁護人双方の意見をきいた上、同年同月二〇日附で先に採用された証人のうち、藤の井米子及び土井光子について、その尋問の日時場所を、同年同月二五日午前一一時三〇分京都市東山区祇園清井町如月小路藤の井米子方に、小野英吉及び小野道子について、その尋問の日時場所を同日午后二時、同市北区等持院北町一四番地にそれぞれ変更すべき旨、並びに、職権で証人南保生を同日午前一一時三〇分前記藤の井米子方において尋問すべき旨の決定(記録第四七八丁)をなし、右決定の謄本は同年同月二三日被告人に適式に送達された(同第四八〇丁)こと、かくて右決定のとおり(証人滝沢漾については前記公判期日において決定されたとおり)の日時場所において、いずれも弁護人立会の上、各証人の尋問が行われたこと、原審第三回公判期日に右各証人尋問調書の取調が行われ、同公判期日には被告人も弁護人とともに出頭していたが右証拠調に関し何らの異議も述べなかつたこと明らかである。そして公判期日外の証人尋問の際の尋問事項は、裁判所が職権で証人を尋問する場合には裁判所が両当事者にこれを知らせるべく(刑訴規則一〇九条)又、一方の当事者の申請による証人を尋問する場合には、その申請をした当事者がその相手方にこれを知らせるべきもの(同一〇八条)であるから、本件において、前記各証人の公判期日外における尋問につき各尋問事項書が被告人に送達された形跡は記録上存しないけれども、証人南保生以外の右証人はいずれも被告人側の申請にかかるものであること上述のとおりである以上被告人がその不送達の瑕疵を問題とし得るのは右証人南保生の尋問についてのみであるが、同証人の尋問には弁護人が立会つており、その供述調書の証拠調に当つても何ら異議が述べられなかつたのであるから、かかる場合においては尋問事項書不送達の瑕疵を違法として上訴することはできないものと解するを相当とする(昭和二九年(あ)第二一三五号、同年九月二四日第二小法廷判決、集八巻九号一五三四頁参照)従つて所論違憲の主張も亦その前提を欠くものといわなければならない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項但書により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島保 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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